東京高等裁判所 平成11年(行ケ)353号 判決 2000年7月13日
原告
中部飼料株式会社
代表者代表取締役
【A】
訴訟代理人弁理士
【B】
同
【C】
同
【D】
同
【E】
被告
三友機器株式会社
代表者代表取締役
【F】
被告
新興商事株式会社
代表者代表取締役
【G】
被告両名代理人弁理士
【H】
同
【I】
主文
特許庁が平成10年審判第35198号事件について平成11年8月27日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨
2 被告ら
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、発明の名称を「生牛糞尿の急速発酵堆肥化法」とする特許2581882号の特許発明(平成4年12月11日出願、平成8年11月21日特許権設定登録、以下「本件発明」という。)の特許権者である。
被告は、平成10年5月8日、本件発明に係る特許を無効にすることについて審判を請求し、特許庁は、同請求を平成10年審判第35198号として審理した。原告は、この審理の過程において、平成10年9月9日、本件発明について、訂正請求をしたが、平成11年2月4日付け訂正拒絶理由通知を受けたため、同年4月20日付け手続補正書を提出した(以下、この手続補正書により補正された訂正請求を「本件訂正請求」という。)。特許庁は、審理の結果、平成11年8月27日、「特許第2581882号発明の特許を無効とする。」との審決をし(以下「本件審決」という。)、その謄本を同年10月6日に原告に送達した。
2 本件発明の特許請求の範囲
(1) 特許公報記載の特許請求の範囲
「生牛糞尿を発酵槽内で攪拌しつつ好気的発酵させる堆肥化法において、生牛糞尿と油脂が吸着された廃棄白土とを発酵槽に投入して、前記油脂が発酵されることにより生ずる発酵熱により、生牛糞尿中の水分を蒸発させて好気的発酵を促進することを特徴とする生牛糞尿の急速発酵堆肥化法。」
(2) 本件訂正請求に係る特許請求の範囲
「生牛糞尿を発酵槽内で攪拌しつつ好気的発酵させる堆肥化法において、槽内の堆積物を均一に好気的発酵できる程度に攪拌できる攪拌羽根を有するとともに外部から酸素供給可能な密閉式発酵槽に、生牛糞尿と油脂が吸着された廃棄白土のみを該生牛糞尿が全体の80~90重量%となり該廃棄白土が全体の20~10重量%となるように投入して、該発酵槽内に酸素を供給しつつ該投入された生牛糞尿と廃棄白土との混合物を攪拌することによって、前記油脂が発酵されることにより生ずる発酵熱により、生牛糞尿中の水分の蒸発を活発化させて好気的発酵を促進することを特徴とする生牛糞尿の急速発酵堆肥化法。」
3 本件審決の理由の要点
別紙審決書の理由の写しのとおりであり、要するに、①本件訂正請求に係る発明は、引用例記載の発明から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、この訂正は同法134条5項で準用する同法126条4項に適合しないので、当該訂正は、認められない、②本件発明は、引用例記載の発明から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項に違反してされたものであり、同法123条1項2号に該当し無効とすべきであるとしたものである。
4 本件審決後の訂正審決による特許請求の範囲の訂正
(1) 原告は、本件審決後である平成12年3月2日に本件発明に係る明細書の訂正をすることについて審判を請求し、特許庁は、同請求を訂正2000-39028号事件として審理した結果、同年4月25日に上記訂正を認める旨の審決(以下「本件訂正審決」という。)をし、本件訂正審決は確定した。
(2) 本件訂正審決による訂正後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「生牛糞尿を発酵槽内で攪拌しつつ好気的発酵させる堆肥化法において、槽内の堆積物を均一に好気的発酵できる程度に攪拌できる攪拌羽根を有するとともに外部から酸素供給可能な密閉式発酵槽に、80%~85%の水分の生牛糞尿と油脂が吸着された廃棄白土とのみを、生牛糞尿が80~90重量%及び廃棄白土が20~10重量%の配合比で投入し、生牛糞尿と廃棄白土のみからなる当該混合物を、発酵槽内に酸素を供給しつつ、前記攪拌羽根により5分間作動10分間停止を繰り返す間欠攪拌を行い、前記油脂が発酵されることにより生ずる発酵熱により、生牛糞尿中の水分を蒸発させて好気的発酵を促進して、当該混合物の投入後8~12時間以内に発酵槽内の混合物の温度を70~80℃とすることを特徴とする生牛糞尿の急速発酵堆肥化法。」
第3当裁判所の判断
1 以上の事実によれば、本件審決は、結果的に、本件発明の技術内容を誤って認定したことになり、この誤りが、同技術内容と先行技術とを対比して本件発明の進歩性を否定した審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。したがって、本件審決は、違法であって、取消しを免れない。
2 よって、本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 阿部正幸)